「腑に落ちる」という表現は、腹落ち、成程感、合点がいくという言葉と、同義でしょうか。ネットで「腑に落ちる」を調べると、 ”単に頭で「わかった」というだけでなく、感覚的にも身体的にも合点がいった状態を表す” 、とあります。
「頭」「感覚」「身体」の3箇所共に納得している状態、ということですね。
因みに「腑」とは人間の内臓(はらわた)を指します。日本語では古くから内臓を感情や本心の象徴として使う表現が多く、「腑に落ちる」もその一つです。
出口治明氏は著書「出口版学問のすすめ」(2020/11/2、小学館)の中で、”知らないことを学ぶのは楽しい”、”わからないことをが腹落ちすると気持ちがいい”と記しています。
では「腑に落ちる」状態のときは、脳内でどんな作用が起きているのでしょうか。「満足感」や「快感」を感じるのはなぜでしょうか。
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ここからは自説・持論を盛り込んだ「深層心理学」「脳科学」的アプローチです。簡潔に要点を纏めます。
[1]深層心理学の「氷山モデル」では、海水面上の氷部分=「意識」領域が5%、水面下の氷部分=「無意識」領域が95%と言われています。
人間の脳内には大きく分けて、3つの情報ネットワークがあります。
1.デフォルトモード・ネットワーク(DMN):「無意識」に近い状態で、記憶や体験に準じて自動的に情報処理や指示出しをする
2.セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク(CEN):自発的に「意識」を向けたときに活発に働く
3.サリエンス・ネットワーク(SN):DMNとCENの対極的な「ネットワーク切替役」を担う
CEN中心で「意識」的に思考する「自分」と、DMN中心で「無意識」に思考する「賢明なもう一人の自分」がいる、と考えることができます。
ここで、意識⇌無意識の「往復運動」=「動的平衡」について、考えてみたいと思います。
CEN(顕在意識) ⇌ SN(潜在意識) ⇌ DMN(無意識)
具体と抽象 具体 気付き 抽象
空間 「物理空間」 「情報空間」
脳部位 大脳新皮質 大脳辺縁系 脳幹
(論理:理性) (情動:感性) (本能:野性)
二人の自分 「現実社会の自分」 「賢明なもう一人の自分」
「腑に落ちる」瞬間は、先ずDMN(無意識)側で「何となく感じていたこと」を、SN(気付き)が ”これは重要だ” と判断し、CEN(意識)側に押し上げます。これが「気付き」「直観」の瞬間です。
CEN(顕在意識) ⇌ SN(潜在意識) ⇌ DMN(無意識)の「動的平衡」が、まさに「腑が落ちる」瞬間に起きています。 「腑に落ちる」=「直観と論理の融合」と言えます。
[2]1960年代にポール・マクリーン博士は「三位一体脳モデル」を提唱しました。学問的には問題のある仮説ですが、脳の構造・仕組み・機能を考えるにはシンプルなモデルなので、理解しやすいです。
人間の脳が進化の過程で、爬虫類脳(脳幹:本能)→哺乳類脳(大脳辺縁系:感情)→人間脳(大脳新皮質:理性)という3層構造を発達させたという仮説です。
佐藤航陽著「プラネタリア」によれば、人間の「情報処理」、本能⇀感情→理性という順序に沿って物語化することで、自然で説得力のある展開が可能になります。
「腑が落ちる」というのは、「頭」[人間脳(大脳新皮質:理性)]だけでなく、「感覚」[哺乳類脳(大脳辺縁系:感情)]と「身体」[爬虫類脳(脳幹:本能)]の3箇所が、共にすることにより”快感”が得られます。
私見ですが、『人間の行動の質は、 野性(本能)・感性(身体感覚)・理性(思考)の 三位一体のバランスで決まる。この3つが同期化したとき、創造性・判断力・行動力が最大化する』、という「仮説」を提案したいと思います。
「腑が落ちる」という状態は、創造性の起点になるということかも知れません。
[3]「脳内快楽物質」ドーパミン・セロトニン・エンドルフィン放出
「腑に落ちる」瞬間には、ドーパミン(分かった!と言う快感)・セロトニン(心の安定・落ち着き)・エンドルフィン(深い満足感・安心感⇀「腑に落ちた」後の心地良さ)などの脳内物質が放出されます。これが満足感・快感の正体です。「理解」と「快感」が同時に起きる脳の統合現象です。
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[総括]
1.CEN(顕在意識) ⇌ SN(潜在意識) ⇌ DMN(無意識)の「往復運動」「動的平衡」「同期化」が、まさに「腑が落ちる」瞬間に起きています。 「腑に落ちる」=「直観と論理の融合」と言えます。
2.また創造性の本質は、CEN(顕在意識) ⇌ CN(潜在意識) ⇌ DMN(無意識)」の「往復運動」「動的平衡」「同期化」です。この「腑に落ちる」瞬間が、「気付き」「閃き」「アイデア発想」に繋がります。
3.私の研究テーマ「自然創発モデル」との関連性について
参考:第233回(2025-12-27)「スポーツ(運動)と脳科学」副題「人間研究」ブログ作品
ー自然環境下の有酸素運動が出発点、「自然創発型循環モデル」による創造性開発ー
1)「自然環境下の有酸素運動」と「自己対話・動的瞑想・瞑想的対話」をセットで実践することにより「無意識の開拓」を進めます。「気付き」「閃き」「斬新な発想」を経て、「知的生産」や「創造性開発」に繋げることができます。
2)この「自然創発モデル」の鍵は、「有酸素運動」と「自己対話」を軸とする「無意識の開拓」です。この「無意識の開拓」により、CEN(顕在意識) ⇌ SN(潜在意識) ⇌ DMN(無意識)の「往復運動」「動的平衡」「同期化」が起こります。
3)つまり創造性の本質は、CEN(顕在意識) ⇌ CN(潜在意識) ⇌ DMN(無意識)」の「往復運動」「動的平衡」「同期化」です。この「腑に落ちる」瞬間が、「気付き」「閃き」「アイデア発想」に繋がります。
4)現実の物理空間で生活する「意識」の世界の自分が、情報空間の「無意識の世界」で空想する「賢明なもう一人の自分」と対話するとき、脳内の3つのモードの「動的平衡」「同期化」により、「気付き・閃き」「アイデア発想」が生まれます。「無意識の開拓」が「創発」に繋がります。
5)創造性の源泉は、「意識」ではなく「無意識」にあります。
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[参考文献]
J.M.ヤング著「アイデアのつくり方」(1988/4/8、CEメディアハウス)
田坂広志著「直観を磨く」(2020/2/20、講談社)
出口治明著「出口版学問のすすめ」(2020/11/2、小学館)
青砥瑞人著「BRAIN DRIVEN」(2020/9/25、ディスカヴァー・トウェンティワン)
青砥瑞人著「4つの集中」(2021/3/18、KADOKAWA)
岩立康男著「直観脳」(2024/3/30、朝日新聞出版)
佐藤航陽・渡邉賢一著「プラネタリア」(2025/12/25、幻夏舎)
櫻井武著「意識の正体」(2026/1/30、幻冬舎)
[文字数2852字]