前回のブログでご紹介したPRESIDENT誌の中で、キラリと光る逸材・橘玲(たちばなあきら)氏を知りました。PRESIDENT誌では「金融マネー本」についの論考でしたが、調べてみると橘玲氏は多様な作品を世に出しています。
橘玲氏は1959年生まれ、早稲田大学文学部(ロシア文学)卒で、元宝島社の編集者だったそうです。個人的には「投資」や「経済」関連の作品に興味がありますが、今回は、現代の幸福論とも言える、橘玲著「幸福の資本論」(2017/6/14、ダイヤモンド社)、という著作を話題にしたいと思います。
橘氏は、頭脳明晰・発想が豊か・独自視点を持つ天才肌です。橘氏の文章は刺激的?な面がありますが、兎に角、鋭さ・切れ味が抜群です。大学時代はほとんど授業に出ず、今も本名や顔を明かさず、YouTubeでは顔は隠しての動画出演です。醸し出す雰囲気からは文学青年上がりの思想家、といった印象を持ちました。
以下、私なりに纏めた本書の要点と私見を述べます。
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[プロローグ]
本書は、「金融資産」「人的資本」「社会資本」という3つの資産/資本から「幸福に生きるための土台」の設計を提案する、というシンプルな考え方から成り立っています。
[序章]三位一体幸福論
「幸福の条件」は3つインフラに対応しています。
(1)自由・・・・・・金融資産(不動産を含めた財産)
(2)自己実現・・・・人的資本(働いてお金を稼ぐ能力)
(3)共同体=絆・・・社会資本(家族や友達のネットワーク)
[私見]幸福の条件を、「自由」金融資産・「自己実現」人的資本・「共同体=絆」社会資本の3点と言い切るところに、著者の切れ味とセンスを感じます。また参考までに、私自身の価値観として、本ブログ55回(3/11)・67回(3/31)・74回(4/14)に「基本理念と行動哲学」と「生活モデル」を記しました。またブログ77回(4/22)に、自然体/自由技術/自分軸について考察しました。個人的には、「自由」と「自己実現」という概念を重要視しています。また人的資本について、著者は「働いてお金を稼ぐ能力」と定義していますが、個人的には、これを「知識・技術・能力」=スキル+センス=人間力、と理解しています。
[第1章]自由のための金融資産
1.日本では年収800万円(世帯収入1,500万円)・資産1億円を超えると、幸福度はほとんど上昇しなくなる。
2.サラリーマンが生涯に払う税金は1億円。
3.お金のことを考え過ぎると不幸になる。
[私見]「お金のことを考え過ぎると不幸になる」というのは、意味深です。確かに「結果」に囚われると「プロセス(過程)」が疎かになってしまう傾向がありますね。鋭い指摘です。
[第2章]自己実現のための人的資本
1.お金持ちの方程式
富=収入-支出+(資産*運用利回り)
2.お金持ちになる3つの方法
①収入を増やす、②支出を減らす、③資産を上手に運用する
人はそれぞれ「人的資本(Human Capital)」を持っており、それを労働市場に投資して日々の糧となる収益(給料)を得ている。
[私見]上記1・2・3項は、第1章の「金融資産」で取り上げても良い内容かと思いました。「金融資産」と「人的資本」の2つの領域に跨る内容、としておきます。
4.最も重要な「富の源泉」は人的資本である。
・人的資本の投資についてのルール:①収入は多ければ多い方がいい、②同じ収入なら安定していた方がいい、③同じ収入なら自己実現できる仕事がいい。
5.「自己実現」=かけがえのない自分になること
6.「新しい働き方」キーワード
①知識社会化、②グローバル化、③リベラル化
7.オンリーワンでナンバーワンの戦略
「好きなことに人的資本のすべてを投入する」
8.弱者の3つの戦略
①小さな土俵で勝負する、②複雑さを味方につける、③変化を好む
・弱者はパイオニア(開拓者)でもある。
・環境が厳しく、変化が予測不能なほどライバルが少ない。
[私見」個人的に、趣味と実益を兼ねた「株式投資」を楽しんでいます。株式市場では、個人投資家が機関投資家との真剣勝負に挑んでいます。この強者相手に勝利するための秘訣が、まさに、①小さな土俵で勝負、②複雑さ、③変化、かと思います。小兵力士が大型横綱・大関に勝つ戦法です。
9.大企業からはイノベーションは生まれない
方策1:通常の組織とは独立した小グループにイノベーションを任せる・・・企業のR&D(研究開発)、「管理主義」と「革新性」はトレードオフ
方策2:①経営者自らが大きなリスクを取ってイノベーションを目指す
②イノベーションを全てアウトソース(外注化)
「私見」経営者自らが大きなリスクを取ってイノベーションを成功させた実例が、日本の実業界の神様とも言える、松下幸之助・本田宗一郎・稲盛和夫・永守重信・柳井正など、日本の名だたる大企業の創業者は皆そうだと実感しています。
10.フリーエージェントへの道
「収益最大化」と「自己実現」を両立する基本戦略は、試行錯誤によって、好きなことを実現できる、ニッチを見つけること
[私見]自営業(フリーエージェント)は、著者自身が試行錯誤の中で見つけた生き方だったのだろうと推察します。
[第3章]幸福のための社会資本
1.金融資産、人的資本と並ぶ「人生のポートフォリオ」のもう一つの柱が「社会資本」
(1) 人間関係、即ち”つながり”、数値化が極めて困難
(2)「幸福」は社会資本からしか生まれない?
「長い進化の過程でヒトがそのようにつくられたから」
「幸福」という感情も、同じ進化論的合理性の産物の筈
2.3つの世界
(1)「愛情空間」 家族・恋人 2~5人 → 政治空間
(2)「友情空間」 親しい友達 20~30人 ↗
(3)「貨幣?空間」 他人の世界
無意識のうちに「お金は汚い」?という奇妙な感情 、お金が愛情や友情といった大切な価値を破壊するから。
3.鬱とセロトニン
「ハッピーケミカル」気分の安定に重要な働き
セロトニンの機能が上手く働かないと不安症/抑うつ症
[私見]「愛情空間」(家族・恋人、2~5人)と「友情空間」(親しい友達、20~30人)は納得ですが、「貨幣空間」(他人の世界)という表現は、あまりに打算的過ぎます。家族・友人以外の第3者とも、ある意味「金銭的」な繋がりだけでなく、広い意味での「愛」「尊敬(リスペクト)」を伴った関係が成り立つと、個人的には考えています。 文面から察するに、著者は人間関係で苦労されてきた様な気がします。
4.フリーエージェントという戦略
(1)組織に属する生き方から、より自由な働き方に変わっていく未来を予言(ダニエル・ピンク)
公務員↔サラリーマン↔自営業(フリーエージェント)
「安定」 ←→ 「やり甲斐」
5.「本当の自分」はどこにいる?
「本当の自分」とは、幼い頃に友達グループの中に選び取った「役割=キャラ」の別名
[私見]本書の中で、一番インパクトがあったのが、本項目の表現です。『「本当の自分」は、幼い頃に友達グループの中に選び取った「役割=キャラ」』、納得です。自然体で、自由で、自分軸を持った自分は、まさに「少年の頃の自分」そのものです。
[エピローグ]幸福な人生への最適戦略とは
1.金融資産 「経済的独立」を実現すれば、金銭的な不安から解放され、自由な人生を手にすることが出来る・・・・・金融市場の中で「分散投資」
2.人的資本 子供の頃のキャラを天職とすることで、「本当の自分」として自己実現できる・・・・・労働市場の中で、好きなことに「集中投資」
3.社会資本 政治空間から貨幣?空間に移ることで人間関係を選択できるようになる・・・・・小さな愛情空間と大きな貨幣?空間(→共存社会空間)に分散
頑健な「土台」をつくったあとで、それぞれが自由な選択で「幸福な人生」という家を建てればいい。
□ 幸福は主観的なもの、だからこそ「自分の幸福」については、自分で考え、「設計」するしかない
□ ひとは、「自分と似ているひとからの助言」が最も役に立つ
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[私見纏め]
1.橘玲書から多くのことを学んだ気がします。勿論、橘流の「幸福論」とは別に、自分の「人生観」や「価値観」があります。自分なりの「幸福感」を持っているからこそ、本書から自分の立ち位置が確認できました。多くの示唆や教訓がありますが、自分の基軸がブレない様にしたいと思います。橘氏の主張にある「 幸福は主観的なもの、だからこそ「自分の幸福」については、自分で考え「設計」するしかない 」、ということになります。
2.子供時代のキャラを天職とすることで「本当の自分」として「自己実現」することの意味・重要性を再認識しました。仕事や学業や家庭の中で、また趣味やスポーツや株式投資など、自分で選んだ好きなテーマについて、「試行錯誤」しながらも、「目的意識」を持って、「自己表現」していく。それが「自己実現」や、更に「自己超越」=世のため人のため、に繋がり、自分の幸福感が満たされれば満足です。
先日、橘玲氏の別の著作「シンプルで合理的な人生設計」(2023年、ダイヤモンド社)を図書館に貸出予約しました。人気作家の本は予約待ちです。年内に読んで、続編が投稿できることを願っています。