「スポーツ(運動)と脳科学」 第4回 -アンデシュ・ハンセン著「運動脳」について-                 

 昨年秋に日本経済新聞で目にした「運動脳」の広告記事に『脳にいいことづくめ、「運動がムリなく続く!」と超話題!』、日本国内20万部!全国書店で続々1位!とPRされていました。その後も出版部数が伸びてます。本書は人口1,000万人の著者の母国スウェーデンで67万部超の実績だそうです。今年始めに書店で購入し、数時間で一気に読むことができました。                                                    
アンデシュ・ハンセン著「運動脳」(2022/9/10、サンマーク出版)、頁数:368頁、価格:1,500円(税別)、Amazon評価:4.4、楽天評価:4.33、個人評価:4.8                                                                          
著者は精神科医として活動する一方、テニス、サッカーが趣味で、週に5日は1回45分以上のランニングに取り組んでいるそうです。毎日1万歩を実践している自分にとって、格好のウォーキング「基本参考書」になりました。                                                    

脳科学関連書籍・文献を読むに際し、①著者が言いたいこと(本質、WHAT)、 ②その理由(何故、WHY)、③具体的な解決手段・方法(HOW)、がポイント。 今回は、これに④著者独自の観点を含む「関連知識」を加えて整理しました。                         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

  「運動脳」全体構成                                                    

    
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本書の要点を整理しました。

1.現代人はほとんど原始人、1万2千年前の狩猟採集時代から、身体の機能も、認知機能や感情もほとんど変わっていません。ただ原始時代の人々は食料を得るために良く動いていた、という点で大きく異なります。[本書28頁]


2.運動をすると脳の血流が増えます。前頭葉に大量に血液が流れ機能を促進し、更に運動を長期にわたって続けるとやがて前頭葉に新しい血管がつくられます。血液や酸素の供給量が増え、老廃物が取り除かれます。[ 79頁]


3.ストレスと運動はほぼ正反対の作用を脳に与えています。ストレスが増す=コルチゾール血中濃度が高くなると、脳内で情報を伝達する機能が妨げられるが、運動は逆にその機能を高めます。コルチゾール血中濃度が下がり、運動はストレスや不安を消し去る解毒剤になります。[107頁]


4.身体に負荷がかかれば、脳はドーパミンノルアドレナリン(集中物質)を放出します。理想的な心拍数の目安は、最大心拍数(220から年齢を引いた数字)の70~75%(例えば、40代なら130~140回、50代なら少なくとも125回)です。 [160頁]


5.近年、神経科学の分野では、脳内最強とも呼べる物質「BDNF(脳由来神経栄養因子)」が注目されています。BDNFは主に大脳皮質や海馬で合成されるタンパク質です。BDNFは様々な場面で脳細胞を守る他、新たに生まれた細胞を助け、初期段階にある細胞の生存や成長を促す役目も果たしています。また脳の細胞間のつながりを強化し、学習や記憶の力を高めています。更に、脳の可塑性を促して細胞の老化を遅らせる働きもしています。BDNFは脳の天然肥料です。[182頁]


6.BDNFを増やせるごく自然な方法は運動で、肝心なのは心拍数を増やすことです。動物実験では運動すると脳がBDNFをつくり始め、運動をやめても数時間はその状態が続きます。心拍数がある段階まで増えると、BDNFが大量に生成されます。定期的に運動すれば、そのたびにBDNFの生成量も増えていきます。[185頁]


7.近年、運動すると創造性が増すことが科学的に立証されています(「創造的思考におけるウォーキングの効能」という研究論文)。また前頭葉は運動によって強化できます。短期的には、運動をするとすぐに前頭葉の血液量が増え、機能が向上します。更に、運動やトレーニングをすると、アイデアを活かす力が高まり、アイデアそのものが溢れ出るようになると考えられています。[258頁・276頁]


8.毎日、意識的に歩くと認知症の発症率を40%減らせます。科学者が見つけたのはただ「歩く」という単純なもので、週に5日で充分だと言われます。歩くことは認知症を防ぐだけでなく、認知機能すべての衰えを防ぐことが立証されています。[319頁]


9.脳は、身体を活発に動かすとドーパミンを放出して気分が爽快になるようにプログラムされています。それは狩りが生存の可能性を増すからです。祖先の生存の可能性を増やした行為と同じ事をすれば、脳はそれを繰り返させようと快感を与えてくれます。ウォーキングにより、脳は新しい食べ物や新しい住み処を探していたと解釈し、報酬として多幸感を与えてくれると考えられます。[348頁]


10.サバンナで祖先が狩りをするときは、集中力を保つことが必須で、獲物を仕留めるには精神を集中して忍び寄り、素早く行動する必要がありました。運動をすると集中力が高まるのはそのためです。運動は記憶力も高めるのはなぜでしょうか。祖先にとって、動き回ることは新しい住み処や環境を探すことでもありました。[349頁]


11.脳に最も効果的な運動量はどの位で、最大限の効果を得るには、どのような運動をすればいいのでしょうか。より高い効果を望むなら、最低30分のウォーキングをしましょう。脳のための最高のコンディションを保つためには、ランニングを週に3回、45分以上行うことが望ましいです。重要なポイントは、心拍数を増やすことです。そして有酸素運動を中心に行いましょう。[354頁]


12.今日、神経科学は目覚ましいスピードで進歩しています。そして毎年、10万もの脳に関する科学論文が発表されていますが、脳の解明はまだその入り口に立っているに過ぎません。脳の働き、特に運動が及ぼす影響については、いまだ未知のメカニズムが無数に存在します。神経科学は、脳の疾患や治療法を探るだけのものでなく、私たちが自分自身を理解する助けとなる学問です。[358頁]
                                                    
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私自身は、毎日1万歩のウォーキングを実践していますが、実際に心拍数を計測したところ100~130回/分の範囲でした。応用動作として、現場ではインターバル速歩を取り入れ、体調により強度を調整しています。                                                    
                                                    
個人的には、(早)朝・午前・午後・夕方に分け、各2、500歩(20分)*4回程度のペースで、有酸素運動後の爽快感・心地良さ=「快」の感情、プラス「頭の冴え」を実感しています。読書や創作活動も捗ります。                                                    
                                                    
本書は350頁を超える質・量共に豊富な良書です。この本を読むと直ぐにでもウォーキングしたい気持ちになります。実際に有酸素運動を習慣化することに役立ちますので、是非、本書を手に取って読んでいただければと思います。