「スポーツ(運動)と脳科学」第82回ー「正しい呼吸」で心や感情をコントロールし、健康で充実した人生を!ー

人間という生命体が生命(いのち)を維持するための基本要素として、

1.食事(栄養分・水分)、2.睡眠(含む休息)、3.呼吸(O2⇋CO2ガス交換)、4.有酸素運動(生活行動を含む)、5.太陽エネルギー(熱・光)、が挙げられるでしょうか。

 

「三つ子の魂百まで」と申しますが、若い頃、特に、青春時代に考えたことは、結構その人にとって大事な、本質的な価値観だろうと思います。私自身思い返してみますと、当時、幾つかの価値基準がありました。

1.価値判断に迷ったときは「自然」か「不自然」か、に分けて判断する

2.仕事・学業・スポーツの場面で、「素直」な人は伸びる

3.「呼吸」は大事、心身健康のバロメータ

4.座右の銘「原点回帰」

5.「哲学」は興味深い

基本線は今も変わりませんが、それでも現時点の価値観を言語化しておきたいと思い、本ブログ第67回「心豊かに自らの道を究む」)に基本理念と行動哲学を文章化しました。

 

今回は、毎日1万歩の「有酸素運動を実践する私自身の個人的な興味から、「呼吸」をテーマに選びました。最近読書量が増え新聞の新刊紹介などで本を選ぶことが多いのですが、自分の本棚から思いがけず良書を見つけることもあります。今回紹介する本もその中の一冊です。

呼吸器科医師・打越暁著「呼吸を変えれば元気で長生き」(2005/9/21、洋泉社)頁数:230頁、正価:780円(税別)

少し古い本ですが、確か2010年頃に購入しました。自分の本の選択眼には少し自信があり、この本は「呼吸」についての網羅的なレビューが魅力です。各章の参考文献は全部で100冊を超えます。医学的観点だけでなく、呼吸法の歴史やスポーツ・武芸に見る呼吸、仏教における呼吸、人生論に至るまで、本書を読めば「呼吸」について専門家レベルの知識が得られます。

 

本書は幅広で且つ掘り下げた内容が多いので、従来の本の読み方を変え、重点志向(特に冒頭部分、第1章1項を精読)+個人的な気づき部分の拾い読み、に徹しました。以下、自分が興味のある重要ポイントを10項目に纏めました。

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1.「息=呼吸=生き=生命・いのち」です。「息」という字は、「自らの心」と書きます「息=呼吸」は日本人の「こころや感情」と関連しているということです。

 

2.「呼吸が心や精神に影響する」ことは、医学的に解明されてきています。最近では丹田呼吸法」脳内物質セロトニンの分泌を促し、心の安定や集中力を養ったり、自律神経系へ作用することでリラックス効果があるということが明らかになってきています。

 

3.日本文化の持つ独特の「型」は、一見型苦しい印象ですが、ある行動を持続的に行うための最も効率の良いやり方です。その型を全うするためには正しい息の使い方が必要です。を整えることで、姿勢も良くなってが決まり、型が決まれば疲れず持続性が生じてきます。そうすると精神に余裕と落ち着きが出てが決まってきます。呼吸と連動した作法に見る動きは無駄や無理がなく端で見ていても美しく感じられます

 

4.肺で行われている酸素O2と二酸化炭素CO2のガス交換を一般に「外呼吸」と言い、細胞内で酸素を利用してエネルギー産生を行う過程「内呼吸」と言います。酸素細胞の中にある小さな器官ミトコンドリアで、ATP(アデノシン三燐酸)というエネルギー源に変換するために利用されています。ミトコンドリアは、酸素を利用して莫大なエネルギーを作り出すエネルギー工場と言えます。食物から摂り入れたブドウ糖や脂肪、タンパク質などの栄養素を分解し、酸素で燃やすことでATPというエネルギーの元として蓄え、これを利用して生命活動に必要なエネルギーを賄っています。最近の研究では、ミトコンドリアの機能不全が生活習慣病の発症や老化などに大きく関わっていることがわかってきています。

 

5.有酸素運動は良いこと尽くめです。ウォーキング・ジョギング・サイクリング・体操・テニス・水泳など、外呼吸と内呼吸の両方を活性化させる最も効率的な運動です。特に細胞レベルの呼吸、つまり内呼吸には血液の流れがスムーズであることが重要な要素です。また足は第二の心臓と言われ、ウォーキングなどで足を良く使うと足の筋肉ポンプ機能で血流が良くなります。酸素が隅々まで行き渡れば細胞レベルで元気になります。更に余分な脂肪も燃焼できます。有酸素運動は出来るだけ楽しく長期間続けていくことが必要です。その際は一つの動作呼吸を合わせてリズム良く行うことが重要です。

 

6.新潟大・安保教授の研究は、免疫系と自律神経の関係をわかりやすく説明、血液に取り込まれた酸素は交感神経を強く刺激し、気圧が高く天気が良い日は元気になります。これは気圧が高いと空気中の酸素濃度が高まり、その分血液に取り込まれる酸素も増えるため、交感神経が刺激され、ひいては、少し興奮した、楽しい気分になるというわけです。また交感神経への強い刺激が、やじろべえの針を逆に副交感神経に揺り戻し、一時的にリラックス作用が認められるのではないかと指摘しています。

 

7.2004年アテネ五輪の水泳・北島康介選手の金メダル快挙で、「チョー気持ちいい」発言は印象的でした。競技中全力で泳いでいるにも拘わらず、呼吸を決して乱していないと考えられます。イチロー選手も同様ですが、スポーツの世界では、呼吸をその動きに合わせる、一番無理のない呼吸をすることが大変重要になってきます。特に一流選手は呼吸が大変うまい、と言えます。

また武道や伝統芸能では、呼吸を通してとか拍子といったものが強く意識されます。呼吸が止まると、動作も止まってしまう傾向があります。武道では、動作が止まってしまった瞬間をめがけて技を繰り出すのが最も効果的です。

日本の伝統芸能である能・狂言歌舞伎の世界では、舞い手と楽器の演奏者、合いの手を入れる人などが、一糸乱れずに芸を演じているとき、「息が合っている」とか「間が良い」と表現します。この「間」というものは日本の伝統芸能において大変重要視されています。「間が良い」とは「動きと動きの間の息が互いにうまく合わさって独特のリズムを形成する」ということです。

 

8.仏教は、紀元前に釈迦が自らの悟りを後世に伝えたものです。その教えでは、呼吸を大変重要視していたことがわかっています。釈迦は究極の実験家で、特に呼吸と心の関係を強く意識して身をもって実験を繰り返したそうです。最終的には深くゆっくりした呼吸が悟りに入る近道であるとし、呼吸の重要性を弟子に伝えたとされています。長呼気、息を吐きだすことを重視し、息を吐き出すと共にこだわりや悩み、苦しみを吐き出してしまえと説きます。

 

9.健康に良い呼吸とはどんな呼吸か呼吸法のポイント

1)「鼻」呼吸(吐くときは「口」呼吸可、口すぼめや発声)

2)「腹式」呼吸(出来れば「腹筋」呼吸)が中心、腹式呼吸とは、おなかの動きを意識した呼吸であること。胸が上下した浅い呼吸ではなく、腹式呼吸に重点の置かれた呼吸

3)吐く息を意識、息を吐き切る、長く吐く

4)ゆっくりしたリズム運動を繰り返す

5)息まないこと

 

10.呼吸を意識して人生を変える

日常の場面場面で呼吸に意識を向けることを「気づきの呼吸」と名付けています。「気づき」とは、自分が何を考え、何をしているのかを立ち止まった認識することで、幸福の基盤です。自分の考えや行動、言動に気づきが多いほど、物事の本質が見えてきます。物事の本質が見えてくれば、幸福に生きるためにはどうしたら良いか。何をしたらいけないのかがわかります。普段無意識に過ぎていく呼吸を意識して行うことで、自分の感情を静め冷静に物事の本質を見ることができます

人間以外の動物は自分の意識によって呼吸を変えることができませんが、人間は横紋筋を自由に使って、自己の意志で呼吸を変えることができます。つまり、人間は呼吸によって人生を変える特権がある存在ということです。

「息」を変えることは、「息方」を変えることであり、「生き方」が変わってくると考えます。日々の一呼吸に意識を向け、悪い呼吸を良い呼吸に変えていき、より良い生き方に変えていきましょう

 

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上記要約は、私自身の興味から本書のごく一部をクローズアップしたものです。皆様が、是非本書を実際に手にされて、著者の深い洞察を読み取っていただければ幸いです。

本書を購入した時点では、私自身、本格的な有酸素運動は始めていなかったので、本書の教えである「意識して呼吸する」ことは、現実的には実行できていませんでした。

でも、今は、著者が指摘する第5項の「有酸素運動は良いこと尽くめ」を実感しています。詳細は、前回ブログ「有酸素運動」研究、についての記事もご参照ください。

 

過去、競技スポーツとして、バスケットボール・サッカー・硬式テニスを経験した時期や、最近数年間の1万歩ウォーキング実践期間では、特別に「呼吸」を意識しなくても、自然に正しい「腹式呼吸」ができているとの感覚があります。

本書を読んでの行動計画としては、外呼吸と内呼吸の両方を活性化させる最も効率的な運動=有酸素運動の継続です。今の私にとっては、自然に恵まれた環境下の毎日1万歩が正解だと自信を深めました。

繰り返しになりますが、特に細胞レベルの呼吸、つまり内呼吸には血液の流れがスムーズであることが重要な要素。②足は第二の心臓、ウォーキングで足を良く使い、足の筋肉ポンプ機能で血流を良くし、酸素が隅々まで行き渡れば細胞レベルで元気に。余分な脂肪も燃焼。、有酸素運動は楽しく、長期間続け、一つの動作と呼吸を合わせてリズム良く行う。この路線で行きたいと思います。

 

また有酸素運動として毎日1万歩ウォーキングをする際には、冒頭申し上げた青春時代の価値観5項目を思い出したいと思います。

1.恵まれた「自然」環境の中、「自然」体で、季節・天候に応じた歩きやすい気軽な服装と靴で、2.姿勢良く「素直」ニュートラル)な気持ち・気分で、気負うことなく、3.項目9に記した正しい「呼吸」法(鼻呼吸・腹式呼吸吐く息を意識・リズム感・息まない)で、4.「原点回帰」=基本に帰って原始の時代に獲物や住み処を求める人類の野性を意識して、5.たまには「哲学」の道を歩くつもりで、興味あるテーマについて思いを巡らせながら歩くのも良いかも知れません。

 

最後になりますが、釈迦究極の実験家で、特に呼吸と心の関係を強く意識して身をもって実験を繰り返したそうです。私自身も、生活の軸としての自分流「毎日1万歩ウォーキング」について、有酸素運動と呼吸と心・身・脳の活性化」をテーマとして研究を継続していきたいと思います。