成長企業JALCOホールディング(田辺社長)については、過去数回、本ブログで取り上げました。今回はJALCO田辺社長の「経営術」理解の助けになる「経営」参考書の話題です。個人的にJALCOを知ったのは6年前、東京で開催された個人投資家向けIRセミナーです。田辺社長は「パチンコ産業」市場解析と同社事業展望について語られました。セミナー内容と共に田辺社長の積極経営姿勢に興味を持ち、投資家の立場でJALCO銘柄調査を進め、少額投資から始めました。
その後、小型成長企業としてのJALCOビジネスモデルと田辺社長の経営センスを評価し、徐々に投資額を増やして行きました。現在のJALCO社は増収・増益・増配中で業績好調な中、市場評価もウナギ登り、先週末の株価は500円超えです。
私の投資スタイルは中長期視点のファンダメンタル投資です。従って「小型成長期待株を中心とした銘柄選択」に重きを置いています。小型成長企業としてのJALCO社の業容・業績と田辺社長の経営術を知る中で、「株式市場」分析と並行して、(「株式投資」のHOW-TO本よりも)主に「経営」参考書で企業経営について学び、「行動経済学」関連書で投資家心理を学ぶことに重点を移しました。主な参考書籍を以下に示します。
「経営」参考書
楠木建著「ストーリーとしての競争戦略」(2010/5/6、東洋経済新報社)
中神康議著「三位一体の経営」(2020/11/24、ダイヤモンド社)
ジム・コリンズ著「ビジョナリーカンパニー」(1995/9/29、日経BP)
「行動経済学」関連書
ダニエル・カーネマン著「ファスト&スロー」上・下(2014/6/25、早川書房)
田渕直也著「不確実性超入門」(2021/10/1、日経BP)
今回は、楠木建著「ストーリーとしての競争戦略」(以下、楠木書と略記)を基本参考書として、JALCO経営術を考察したいと思います。楠木書は、500頁に及ぶ大著で、ビジネス書大賞2011を受賞した30万部超を誇るロングセラー名著です。著者の楠木建先生は、現在一橋大学特任教授で、同じ母校のJALCO田辺社長と同世代です。本書は机上の空論の「経営学」理論書でなく、実例も数多く研究されている実戦的な経営書です。
個人的には「楠木建」人間研究に興味が有ります。同様に、「田辺順一」人物像にも見るべきものがあるのですが、これらの解析は別の機会に譲ります。楠木書には「人間の本能・本性・本質」的な表現が良く出てきます。「企業経営」は勿論「顧客」相手ですから、著者は「人間洞察」にも力点を置いています。ある意味、経営哲学書・人間哲学書・投資哲学書でもあると思います。
今回の記事は、楠木書の中からJAICO株投資家として参考にした主要3項目に的を絞り、以下、同書からの引用を含む要約と私見を記します。引用部分には『 』印をつけました。
1.戦略は流れと動きを持った「ストーリー」
本書は、本のタイトルにある様に「ストーリーとしての」という部分が重要です。「まえがき」にも、『「優れた戦略」とは思わず人に話したくなるような面白いストーリーだ』、と明言しています。
『戦略を構成する要素がかみ合って、全体としてゴールに向かって動いていくイメージが「動画」のように見えてくる。全体の動きと流れが生き生きと浮かび上がってくる。・・・戦略がこの意味でのストーリーになっているかはどうかは、内容は勿論ですが、戦略のプレゼンテーションをする人の表情や声、雰囲気にも注意して聞いていれば、一目瞭然です。そこにストーリーがあれば、その戦略を作っている人自身がストーリーに興奮し、面白がり、実に楽しそうに戦略を「話して」くれるからです。』
[私見]
この本で重要なのは、戦略ストーリーは「論理」があり、静止画でなく「動画」だという点です。JALCO株主の方はご存知の通り、田辺社長は毎月1回投資家向けにYouTube動画を発信しています。動画での決算説明報告も欠かせません。これら動画の中で、田辺社長はJALCO業績の他、経営戦略や事業展望を熱く語ります。毎月の動画タイトルが「代表取締役田辺順一が吼える!」になっている程で、毎月1時間半程度(前回は2時間超)をかけて熱く語る長編動画です。他にも毎週のように3分程度の「短編動画」や「X(旧Twitter)」を発信しています。楠木先生の表現通り、田辺社長自身が経営戦略ストーリーに興奮し、面白がり、実に楽しそうに戦略を「話して」くれます。熱く語ってくださいます。田辺社長の言動や行動は、我々株主を含む関係者に「関連情報・知識」と「田辺哲学」と「経済メリット」など、いつも「ワクワク感」を与えてくれます。
2.戦略ストーリーの要点は、本書終盤の「骨法10カ条」に纏められています。但し、骨法とは言っても74頁に及ぶ長編です。「骨法その1」は「エンディングから考える」です。
『エンディングを固めるためには、実現すべき「競争優位」と「コンセプト」の二つをはっきりとイメージしなくてはなりません。・・・思考の順番としては、エンディングと逆回しでストーリーを構想するべきです。様々な打ち手をあれこれ考えるのは後回しです。』
『競争優位はこちらが儲ける理屈にすぎません。なぜ儲かるのか。それは顧客に何らかの価値を提供するからです。』
『戦略のゴールは長期利益にあります。この「ゴール」という言葉を「目標」と「目的」に分けて考えてみましょう。・・・目標に相当するのが長期利益です。この目標を達成する理由であり、手段となるのが競争優位です。』
『一方のコンセプトは目標というよりも目的という言葉がしっくりきます。・・・実現しようとする観客価値がコンセプトに凝縮され、それが組織の人々に共通の目的になっていなければストーリーは動きません。』
『優れたコンセプトを構想するためには、ターゲット顧客をはっきりさせるだけでなく、そうした人々の心と体の「動き」を頭の中でよくよくイメージしてみる必要があります。・・・顧客の側で起こる一連のストーリーを頭の中でしつこくイメージするということです。ターゲット顧客の「動き」を細部までリアルに思い浮かべてみることが大切です。』
[私見]
具体的なコンセプトの実例として、スターバックス「第3の場所」、ユニクロ「高品質・低価格」、ガリバー「買取専門事業」、ブックオフ「リユース社会のインフラ」などが挙げられています。何れの事例もピンとくるコンセプトですね。
JALCO社のコンセプトは、当面は「パチンコ産業向け金融総合サービス」とでも表現すべきでしょうか。中長期的には「金融民主化」という社会的使命が該当するのかも知れません。
JALCOのビジネスモデルは、紆余曲折を経て、最近はパチンコ関連産業の顧客向けに特化して、「金融・不動産関連の総合サービス企業」として、顧客から絶大な支持を得ています。ターゲット顧客が明確ですし、背景としては、田辺社長自身がパチプロ級の腕前だそうで、業界を知り尽くしているのが強みです。まさに「好きこそものの上手なれ」です。
3.一番大切なこと
著者は、本書の中で「戦略の目的は長期利益の実現」としながらも、最後の骨法10カ条に続く本の最後の4頁に「一番大切なこと」を記しています。「楠木建」という人間のの「度量」の大きさと「男気」と「魂」、眞に「人間味」を打ち出してくれています。大変感動しましたので、原文に忠実に「多くの文章」を引用させていただきます。
『論理が大切だという話をこれまでしつこくしてきました。だからと言って、論理にとらわれて、自分自身にとって「切実なもの」を衰弱させてはなりません。戦略ストーリーにとって一番大切なこと、それはストーリーの根底に抜き差しならない切実なものがあるということです。』
『「切実さ」は「面白さ」とは少し違います。面白いというのは、あくまでも自分を主語にしています。・・・しかし、面白いだけではその情熱は長続きしないように思うのです。戦略ストーリーが向こう10年、20年を射程に入れたものであるとすれば、それだけの長期を支える屋台骨として、面白さを超えたところにある切実さが必要になります。』
『戦略ストーリーにとって切実なものとは何か。煎じ詰めれば、それは「自分以外の誰かのためになる」ということだと思います。直接的には顧客への価値の提供ですが、その向こうにはもっと大きな社会に対する「構え」なり「志」のようなものがあるはずです。』
『「社会貢献」とか「世のため人のため」というと何やらきれいごとに聞こえるのですが、自分が楽しい、自分のためになるということだけでは、スタートダッシュは効いても、決して長続きしません。・・・切実なものとは、結局のところ「世のため人のため」なのです。』
『「切実さ」と「面白さ」とは、実際のところはほとんど重なっているのかも知れません。「好きこそものの上手なれ」です。自分が好きで、心底面白いと思えることであれば、人は持てる力をフルに発揮できます。その結果、良い仕事ができるし、自分以外の誰かの役に立てる。人の役に立っているという実感が、ますますその仕事を面白くする。ますます好きになり、能力に磨きがかかる。こうした好循環が仕事を持続させるのだと思います。「世のため人のため」はつまるところ「自分のため」ですし、本当に「自分のため」になることをしようとすれば、自然に「世のため人のため」になります。』
『優れた戦略ストーリーを読解していると、必ずといってよいほど、その根底には、自分以外の誰かを喜ばせたい、人々の問題を解決したい、人々の役に立ちたいという切実なものが流れていることに気づかされます。「世の中は捨てたもんじゃないな」、とつくづく思うのです。』
[私見]
本書の最後の4頁「一番大切なこと」を読んで、実は「ようやく安心した」心境になりました。企業の究極の目標(目的)は長期利益の最大化という論調が目立っていた中、経済性(商業主義)優先で、社会貢献や人間性尊重のとのバランスを危惧していましたが、今や経営学の重鎮とされる楠木建先生が、本書の結び「一番大切なこと」に、「世のため人のため」を挙げていただきました。
個人的にも、「長期利益の最大化」と「世のため人のため」は「二律背反」トレードオフの関係ではなく、時間軸を長く取れば「両立」トレードオン可能と考えています。ユニクロの「高品質・低価格」衣料品やスターバックスの「第3の場所」コーヒー店は好事例と思います。
またJALCO事業が、増収・増益・増配で業績好調な中、市場評価上昇(直近株価500円超)というのも顧客・取引先を含む社会貢献度向上の結果と受け止めています。更に田辺社長が使命感を持って中長期構想として掲げる「金融民主化」は楠木先生が示した、直接的には顧客への価値の提供ですが、その向こうにはもっと大きな社会に対する「構え」なり「志」のようなもの、そのものだと思います。
ストーリー企業経営は長期利益の最大化が究極の目的ですが、顧客を含むすべてのステークホルダーに貢献する必要があります。だからこそ持続的な利益が何よりも大切です。
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前回ブログ記事でも述べた通り、JALCOホールディングス(田辺社長)は、アミューズメント施設等賃貸・売買の不動産事業とM&Aコンサルティング事業の2本柱経営で貸金業も展開しています。ここ数年来「業容・業績拡大」+「増配」を実現してきた今、田辺社長がリードする「パチンコ関連」事業展開、「株主対話型」経営、「超少数精鋭人事」政策、「社員持ち株」制度、「累進的配当」政策、「金融民主化」構想、など新機軸がオンパレード、見事な経営手腕を発揮しています。
様々な打ち手が、長期展望としての志「金融の民主化」の実現に一歩づつ近付くことを期待しています。
JALCO社の毎月の動画「代表取締役田辺順一が吼える!」は3年前にスタートしました。現在までに33回を数え、毎回1時間半として延べ50時間に及び長編動画です。田辺社長が熱く語りますす。進行役は「相場の福の神」藤本誠之氏で、JALCO幹部や若手社員の出演の機会も増えてきています。JALCO事業の現状と将来構想を中心の話題で、視聴者の多くはJALCO株主と思いますが、中長期投資家として夢と希望=「ワクワク感」を貰います。
総じて言えば、楠木建著「ストーリーとしての競争戦略」書が企業経営の「理論編」で、JALCO動画が現実・現物・現場企業の「実戦編」です。楠木書を紐解きながら、JALCO社(田辺社長)動画を見るのを楽しみにしていることをお伝えして、今回5千字を超えてしまったー「JALCO田辺社長の経営術」の理解を助ける経営参考書ー記事を締めたいと思います。