「スポーツ(運動)と脳科学」第105回ー「脳研究」講義本(池谷裕二教授)から得た気付きー

「脳研究者」池谷裕二東京大学薬学部教授が、神奈川県下有数の進学校栄光学園高校生10名に行った3日間の講義を基にした670頁(・27章・255節)の大作「夢を叶えるために脳はある」


 

から、興味本位で選んだ要点7項目私見を纏めました。 「脳研究への誘い」といった感じの「対話型」講義内容を、15年前・10年前に続く第3作として、池谷教授が全力投球して仕上げた著作です。池谷先生の博識さと脳研究に向ける情熱に圧倒されました。下記記事は本の内容の極々一部です。脳科学に興味のある方は、是非、池谷先生の著書をご一読下さい。

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1.動物の睡眠「なぜ眠るのか」(1-75節)                                 
 餌を求めて動き回るのは動物の特徴だ。植物はじっと動かず睡眠の状態に近い。睡眠こそが生物の基本的な状態。動物は睡眠を進化させたのではなく、覚醒を進化させたと考える。動物は生存(餌を探す)や生殖(繁殖)目的で起きて歩き回る。                 

 

私見]:福岡伸一著「動的平衡」シリーズの中での「人間は動き回るのが自然、本来の姿」という言葉を思い出した。                 
                                    

2.「見て覚えるより、書いて覚える方が良い」=「困難学習」(2-8節)            
入力(見る)するより出力(書く)する方が記憶に定着する。参考書を読んで知識を入力するよりも、問題集をやって答えを出力した方が学習効果は高い。教わるよりも、教える方が、良く脳に定着する。                                    
 

私見]:樺沢紫苑著「アウトプット大全」では、INPUT:OUTPUT=3:7が黄金比とされている。個人的にも、読書記録やブログ投稿などのOUTPUTにより記憶定着が高まることを実感している。

                                   
3.米国・陸軍士官学校で志望動機を訊いた(2-76節)際に、「手段動機」として、国に貢献したい・愛する家族を守りたい・技能や素養を身につけたい・出世したいよりも、「内発的動機」陸軍そのものが楽しそう、と言った新入生の方が出世した。「内発的」は文字通り、心の内側から自然と発せられる動機だ。「手段動機」は、軍人になることはその動機を達成するための「手段」に過ぎないが、「内発的動機」は「好きに理由がない」ということで、「楽しいから!」だ。「楽しむ力」「ご機嫌に生きる力」が重要だ

                                   
私見]  ダニエル・ピンク著「モチベーション3.0」でも、内発的動機付けの重要性が論じられている。個人的にも、面白い・楽しい・良いな!という興味・関心・好奇心が行動の出発点として大事だと実感している。                                  

 

4.「楽しむ力」は、脳のどこから生まれるのだろうか(2-77節) 。脳には「報酬神経系」という、快感の回路がある(1-65節)。快楽の座、いわば、やる気の発生源。その報酬系の中でも、代表的な脳部位は側坐核だ。この側坐核が活性化すれば、モチベーションが高まるやる気が出る。

 

私見]:青砥瑞人著:「BRAIN DRIVEN」には、モチベーションにおけるドーパミンの役割について詳述されている。モチベーションが高いと注意力・集中力・記憶定着なども高まる。個人的には、有酸素運動後は読書・執筆活動が捗る理由として頷ける。

                                               

5.「やる気を生む脳部位を活性化させるには」(2-78節)                                    
側坐核を活性化すると、やる気が出る。ということは、「バイオフィードバック」生体の情報を、本人に知らせてフィードバックするという意味 側坐核を自在に活性化できるようになったら、勉強に役立つ。「どうやって側坐核を活性化させたか」と訊いてみると、多くの方が「楽しいことを想像した」からだという。楽しむ力は、やる気にも変わ。     

 

私見]:個人的には、毎日、自然環境の中で楽しみながら1万歩のウォーキングを行っているが、有酸素運動後は心地良さ=「快」の感情と共に「やる気」が高まる。これはドーパミンをはじめとする神経伝達物質の分泌効果だと考えている。

 

6.「生き甲斐」(2-79節)                                    
楽しかった体験をありありと想起することは、人格、ひいては人生を変えるくらいの効果がある。「楽しく生きる」「ご機嫌に生きる」とは、こうしたことだ。「知好楽」という言葉がある。古代中国の古典「論語」に由来する言葉で、「之を知る者は、之を好むに如かず、之を好む者は、之を楽しむ者に如かず」だそれほどに、楽しむ力は大切、という主張だ。そして、論語から2500年を経た現在、科学的裏付けをもって、この主張が意味を浴びる。現在だからこそ、この言葉が重くのしかかる。人工知能には決定的に欠けたものだから、この楽しむ能力こそが、ヒトならではの特徴だ。                                    
                                    
私見]:1.楽しかった体験を思い出すことは、心豊かになり、毎日の生活の質を高める効果がある気がする。スポーツ・雄大な自然発見・研究などの成功体験を思い出すことは、モチベーションを高めるのに大いに役立つ。2.人口知能(AI)と人間の脳との最も大きな差異は、感情・感動・情緒・美意識・センスなど「右脳」で感じ取る部分がAIでは認識できないことかも知れない。数学者・藤原正彦氏は著書「国家の品格」の中で、「論理」プラス「情緒」の総合判断力が重要と主張する。納得だ。                        
                                    
7.おわりに                                    
 私たちが自分の生き方に対して問うべきは「人生にどんな意味があるか」ではなく、「どんな意味のある人生にしたいか」です。意味を訊くのではなく、意味を創り出す。外部に答えを求めるのではなく、自分の内側に答えをこしらえるこのプロセスにこそ、ヒトが生きる意味があります

 

私見]:人生論の名著、スチーブン・R・コヴィー著「7つの習慣の基本コンセプトであるインサイドアウトと、個々人の「主体性」こそが大事、という言葉を思い出した。「自分から動く」のか、「動かされる」のと、どちらが良いのか。勿論、前者だ。

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本書には、神経伝達物質ドーパミン」という名称は一切使われていませんでした。個人的には、過去の本ブログで「ドーパミンの作用・効果」について話題に取り上げました。

参考記事

第102回(2024/7/8)「ドーパミン脳科学と人間研究」

tigerwoody.hatenablog.com

第104回(2024/7/18)「ドーパミンとH&N物質の活用には有酸素運動が一番」

tigerwoody.hatenablog.com

 

ここで、ご参考までに、ドーパミンの解説を掲げておきます。

ドーパミン腹側被蓋野(VTA)で産生され、側坐核及び前頭皮質得放出されています。この神経伝達物質 は報酬経路の一部として、快楽の感情をもたらす役割を果たしています。またVTAのドーパミン神経は報酬予測誤差信号として学習を制御する役割を担っています。』 

 

繰り返しになりますは、本書の中で「どうやって側坐核を活性化させたか」の質問に対し、多くの人が「楽しいことを想像した」からだと答えています。楽しむ力は、やる気にも変わ、ということになります。     

また、楽しかった体験、例えば、スポーツ・雄大な自然発見・研究などの成功体験、を思い出すことにより、心豊かに、生活の質を高め、モチベーションを高めるのに大いに役立つことを、本書は気付かせてくれました。とても大きな収穫です。「人間研究」の参考書です。