「スポーツ(運動)と脳科学」第75回-心に響く言葉を生み出す技術ー

日本経済新聞(2024/4/7)に、「言葉にできる」は武器になる。という本の広告が載っていました。本のタイトルに惹かれ、早速、図書館に貸出しを申し込みました。著者梅田悟司さんは電通出身の有名なコピーライターで、上智理工系大学院修了という変わった経歴の持ち主です。

借りた本を読み始めて、文章の質の高さ、特にキャッチワードの巧みさに引き込まれました。これは手元に置くべき本と思い、近くの書店に出掛けました。すると2016年の発行の本(日経BPなのに、棚に陳列されていました。流石、30万部突破本です。「心に響く言葉を生み出す技術」について丁寧に纏められた良書です。個人的には、定価(1,500円+税)の10倍以上の価値がある本だと思っています。

 

先ず、梅田書「はじめに」からの引用です。著者の言葉に対する熱い思いが感じ取れます。

『本書では、理系一辺倒で、さほど読書経験もない私が、いかにして思考を深め、1人でも多くの人の心に響く言葉を生み出そうとしているのかを、誰もが同じプロセスを辿れるように順を追って説明していきたい。

短期的かつ急激に言葉を磨くことはできないが「内なる言葉で思考を深め、外に向かう言葉に変換する」といった流れを体得することで、一生モノの「言葉にできる力」を手にすることができるようになることを、ここに約束する。』

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本文の中では、特に1章「内なる言葉」と向き合う(15頁~59頁)は「確かに」と頷く内容ばかり、目から鱗です。文章が読み易い上に内容が素直に頭に入ってきます。と言うより頭と心と体に沁み込んできます。1章45頁で赤付箋(重要部)17箇所、こんなに納得感のある本は初めてです。

 

以下、私が理解した要点です。数多くの感銘の中から6項目に絞りました。

1.言葉には2つの種類がある「外に向かう言葉」「内なる言葉」である。相手が聞きたい(読みたい)のは「意見」であって、言葉そのものではない。言葉が「意見」を伝える道具であるならば、先ず意見を育てる必要がある。

言葉を生み出す過程は、①「内なる言葉」で意見を育て、②「外に向かう言葉」に変換する、という二段階が存在する。言葉を磨きたいのであれば、小手先の技術やスキル(表層的な言い方や伝え方)ではなく「意見」としての「内なる言葉」を育てることが先決だ。

 

2.内なる言葉

頭に浮かぶ「内なる言葉」は、単語文節など「短い言葉」であることが多い。最も基本的で重要なのは、1人の時間を確保し、自分自身の中から湧き出る「内なる言葉」と向き合うことである。自分の視点と向き合うことである。自分の気持ちに関心を持ち、心の機微を捉えることから始めたい。

 

3.人間の行動の裏には、必ず何らかの動機がある。言葉で考えるならば伝えたい思いがある。頭に浮かぶ言葉をそのままにしておくことなく、単語でも箇条書きでも、先ず紙に書き出し見える化」(=アウトプットする。

 

4.頭の中は、過去の様々な出来事や気持ちを覚えている「記憶域」と、新しい物事を考える「思考域」の大きく2つに分けられる。考えるという行為は、頭を回転させるため「思考域」で行われる。だから「記憶域」にあるものを一旦外に出して、考えることに集中できる環境を整える必要がある。そのために、真っ先に行うべきことは、頭の中に浮かんでくる「内なる言葉」をとにかく書き出すことである。そして、その内なる言葉を軸として、考えの幅を広げたり、奥行きを深めればいい。

頭の中に浮かぶ「内なる言葉」を外に出すことで、頭の中に考える余地や空間が生まれた状態になる。すると思考と記憶が切り分けられるので、考えを進めることに集中できるようになる。

 

5.書き出された言葉を軸にしながら、幅を広げ奥行きを深めていく。「内なる言葉」を中心に、「なぜ?」は考えを掘り下げ、「それで?」は考えを進め、「本当は?」は考えを戻す。3方向の「T字型思考法」で考えを進める。

 

6.「人の心を動かす・響く・感動的スピーチ/プレゼン」、「人の心をワクワクさせる・ときめかせる言葉」は、話し手がそのテーマの全体像を把握した上で、自分の言葉・視点・意見と真剣味が大事だ。人の心を動かすのは、話している本人の本気度使命感であり、生きる上で感じてきた気持ちが総動員された、体温のある言葉なのだ

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ここからは個人的な私自身の文筆手法の話です。

自分の執筆活動では、先ず「課題テーマ」について、A5版メモ用紙に重要ワード(心の声)を大きな字で3つほど書き出します。その上で、その補足説明や関連事項を小さ目の字で、追記します。梅田書の3方向「T字型思考法」に対し、私の場合は4方向「十字型」若しくは8方向「米字型」思考法です。更に、部分的な「仮説」を考慮しながら論理を組み立てます。最初は仮説ですが、自問自答したり、参考情報も勘案しながら代案や反証も考えます。試行錯誤した上で、「全体シナリオ」に繋げます。最終的には、全体の流れを固めながら、方向性や結論を打ち出し「論考」を仕上げます。

 

基本手順は、①目的⇋②課題テーマ選定→③「キーワード」メモ書き→④関連情報追加⑤骨子箇条書き→⑥粗い文章化→⑦正式文章化→⑧全体校正→⑨最終作品です。勿論、応用動作は色々・多々あります。ポイントは、「目的⇋課題テーマ選定」のキャッチボール段階と「キーワード」メモ書き段階です。

 

もう一つ大事なのはオン・オフの切り替えです。原稿作成段階で、①意識的に時間を空け原稿を寝かしたり、②有酸素運動や庭いじりで気分転換したり、③パソコンで別の仕事やネット記事を見たりして、一度「頭を空っぽ」にする時間を意識的に取ることです。

このことは梅田書も第2章の「時間を置いてきちんと寝かせる(客観性の確保)」の項で触れています。

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最後に、本書を読んでの考察と総括です。

1.脳科学的視点(人間の脳の構造と仕組みから)

「情報の入出力装置」としての人間の脳について考えてみます。養老孟司先生の著書を参考に作成した下記「模式図」を参照ください。五感から得られた情報は、人間の脳内で「感じる」「思う」「考える」過程があります。これは脳内の内部出力と言われます。梅田書の「内なる言葉」はこの脳内の「内部出力」に相当すると思われます。「思う+考える」=「思考」です。この脳内の内部出力は、次段階で「話す」「書く」「行動する」という脳外への「外部出力」に続くことが多いです。外部出力は筋肉の収縮運動を伴います。「話す」は声帯を筋肉を震わせ、「書く」は手・指を動かします。「行動する」は全身運動です。

つまり、梅田悟司さんは、模式図の脳内ループを回転させての(感情+)思考により「内なる言葉」を明確にすることの重要性を説明されているのだと思います。

因みに、「外に向けての言葉」は、具体的に「話す」「書く」「行動する」の外部出力(=筋収縮運動)になります。

繰り返しになりますが、梅田書の「心に響く言葉を生み出す技術」の本質は「感情」と「思考」の脳内の内部出力の段階であって、その出来栄えが、「話す」「書く」「行動する」という脳外への外部出力の質の高さに繋がる、と言えるかと思います。

 

2.「外に向けた言葉」の「How-to」論よりも、内なる言葉の「What」=本質論が重要です。「内なる言葉」は、より本能に近い動物脳(大脳辺縁系)を出発点としているのではないでしょうか。「外に向けた言葉」については、建前論を盛り込んだ人間脳(大脳新皮質)で質とバランスを整えるのではと考えました。「感性」重視や「右脳」思考で発想して、「創造的アウトプット」に繋げるプロセスにも関係している気がします。

 

3.梅田悟司著「言葉にできる」は武器になる。を読んで、大変勉強になりました。同時に、自分の価値観や思考プロセスや文筆手法との比較評価の中で、共通点を見出せたり、逆に自分の個性や特徴も認識できました。

自分の持ち味として、「有酸素運動と文筆活動の相乗効果」や「脳科学的視点での創造性アウトプット推進」等の課題レベル向上を目指しつつ、引き続き「コピーライター梅田悟司」研究を継続していきたいと思います。