「スポーツ(運動)と脳科学」第79回ー自然体験しつつ、自分の命の「ときめき」に素直に生きるー

人間という生命体が生命を維持するための基本要素について考えてみます。

1.食事(栄養分・水分)、2.睡眠(含む休息)、3.呼吸(O2⇋CO2ガス交換)、4.有酸素運動(生活行動を含む)、5.太陽エネルギー(熱・光)、が挙げられるでしょうか。

この内、食料については、動物(牛・豚・鶏・魚類)の飼育・管理・加工や出漁・養殖が必要ですし、勿論、植物(米・小麦・豆類・野菜・果物他)の栽培・管理・収穫が必要です。

つまり人間と動植物との共生が前提になり、人間を含む動物や植物、即ち生物全体が生命の維持可能な大自然という環境が重要だということになります。

 

分子生物学者の福島伸一青山学院大学教授生命体の基本原理である動的平衡について多数の著作があります。動的平衡とは「絶え間なく動き、それでいてバランスを保つもの。動的とは単に移動のことだけではなく、合成と分解、そして内部と外部との間の物質、エネルギー、情報のやり取り」を含みます(福岡伸一著「新版動的平衡2」)。方丈記の一節「ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」の世界です。

 

解剖医の養老孟司東大名誉教授は、人間は「合目的性」「試行錯誤」を行動原理とする、という趣旨の話をされています。また情報の入出力装置としての人間の脳は、五感からの入力情報脳内で処理して、出力身体の筋収縮運動、①話す、②書く、③行動するという自己表現になります。この概念の模式図を示します。

 

春山代表との対談の中での養老孟司先生の言葉を引用させていただきます。「模式図」を見ながら説明を読むと良く理解できます。

に関して言えば、身体で感じる感覚、つまり目で見る、耳で聞く、手で触る、鼻で嗅ぐ、舌で味わうという五感が「入力」で、それに反応して身体を動かすのが「出力」です。』                                
『まず、外界からの情報が感覚を通して脳に入ってくる。それを受けて脳の中で計算して、考えた結果肉体の運動として出てくる。』

『そんな風に感覚→脳→身体→感覚→という具合に情報をぐるぐる回していく。こういう脳の「回転」の重要性が言われるようになったのは、脳研究の世界でも比較的最近のことです。脳には、入力と出力の両方が必要です。』                                

 

私自身は個人的に毎日1万歩の有酸素運動を行っています。この体験の中で、①「快」の感情、②「心身健康」維持向上、③「脳」活性化、という効果を実感し、有酸素運動を毎日の生活リズムの軸に据えています。

小林弘幸順天堂大学医学部教授は、著書「整える習慣」で「自律神経は、私たちが生きていくために最も重要ともいえる血流を司っています。健康な体とは、良質な血液が良好に流れていることです。」と記しています。私の毎日の有酸素運動による血流増加が心・身・脳の活性化に役立っていると考えています。

 

今回、登山用地図アプリ開発企業のYAMAP創業者である春山慶彦著「こどもを野に放て! AI時代に活きる知性の育て方」(2024/2/29、集英社)」という新刊書の内容をご紹介します。養老孟司中村桂子・池澤夏彦という3名の大先生方との個別対談集に加え、春山慶彦氏のColumn2編(各10頁・6千字程度)が秀逸です。以下,そのcolumnの要点を纏めます。

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Column1.「自然経験こそ最上の教育」

1.環境の中に人類がいて、その人類の中に自分の命がある。数学者・岡潔さんは「宇宙樹」という言葉で表現。「宇宙という大きな木があって、そこに地球という幹があり、生物と言う枝の、人類という小枝の先に、自分の命という葉っぱがある。」、と若者に話したそうです。環境や生物とのつながりの中で今ここに自分はいる。命はつながっていて、そのつながりを感じることがいかに大事かを岡さんは語っています。

 

2.人と自然が共に豊かになっていく仕組みの一つが「吉野詣」です。昔の参拝者は、ご神木である桜の苗木を持って吉野にお参りをして、その苗木を植えるという風習がありました。吉野詣では、山に行くことと山を美しくすることがセットになっていて、それを祈りの行為としています。

 

3.安宅和人慶応大学教授「知性の核心は知覚にある」と述べています。知性の獲得には、まず感覚を通した知覚があり、その次に思考(知識)があって、行動があるのだそうです。これは、何を見、何を感じるかが知性の原点だということです。自然の中で、感覚・感性を含めた知覚をどう磨いていくかが重要です。

 

4.感覚を研ぎ澄ますためには身体が大事です。自分の身体が生き生きしていることが知覚を磨く原点です。登山やアウトドアなど、身体の感性を磨くことにもっと時間や意識を傾けた方がいい、と春山氏は指摘しています。

 

Column2.「いのちのときめき」に素直に生きると、それが「仕事」になる

1.生き方と職業を考えるとき、いつも「車輪」をイメージします。生き方は車輪のど真ん中で、職業はどちらかと言えば車輪の外側収入や肩書きも、車輪の外側。車輪の外側に自分の軸を置いてしまうと、車輪が回転する度に浮き沈みが激しくなります。でも、車輪のど真ん中に生き方や大切にしたい価値観を据えておくと、社会や状況がどんなに変化しても、振り回されることがありません。社会や環境の変化が激しい時代だからこそ、好きや、わくわくする衝動といったものを車輪のど真ん中に据える。職業や仕事は、車輪の外側くらいの認識でいいと思います。

 

2.神話学者・ジョーゼフ・キャンベルは著書「神話の力」の中で、"Follow your bliss"「自分の命のときめきに素直に生きる」と解釈されます。自分は何に対して命がときめきわくわくするのか。このときめきを掴まえておくことが大事

 

3.大事なことは、矢印の出発点を自分に置き、その矢印の行き先を世界に向けることです。「知りたい」「学びたい」という衝動に駆られ、知的好奇心が湧いてきます。旅や登山にをする人は感覚的にわかると思いますが、自分の命が「透明」になる感覚、あるいは世界に抱きしめられているような感覚です。他者や世界に開かれた自分です。世界全体と自分の命がつながっていることも、概念ではなく身体経験として理解することが大切です。

 

4.仕事というのは、現状と理想のギャップを埋める手段であり、プロセスです。大切なのは、理想をイメージできるかどうか、「これをやらないといけない」という使命感に駆られるかどうかです。

これから社会に出る人には、命がときめくことに素直になって、色々なことにチャレンジしてほしいと思います

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以上、YAMAP春山代表の自然観をベースにした「教育論」と「仕事論」は示唆に富んだ内容です。考え抜いて、またYAMAP事業を含む実践行動に裏付けられた確固たる「春山哲学」作品です。

私も個人的に、競技スポーツ+山・スキー・渓流釣りに熱中した経験があります。その延長線上で、現在は立山連峰を望む恵まれた自然環境の中で、毎日1万歩の有酸素運動を続けています。

歩くことは思考を深める上でも大切な身体行為」との表現もある様に、動物的な自分の感覚や感性を大事にしたいと思います。自然・環境との一体感、身体知、自分軸を重視し行動する春山氏の考え方に大いに賛同します。

 

最後に、本書を読んでの考察と自分自身の方向性について整理します。

1.「自然観」、山・森・渓流=「自然との一体感」、身体で体験=「身体知」を大切に日常生活を充実させたいと思います。

現状:立山連峰を望む恵まれた自然環境下での毎日1万歩の有酸素運動

計画:ドライブを兼ねた山岳地帯・渓流・温泉地への遠出で行動範囲拡大

 

2.「自分軸」重視という考え方については、下記本ブログで記事にしました。コビー著「7つの習慣」の基本概念であるインサイドアウトという考え方ともoverlapします。「心豊かに自らの道を究む」という基本理念を大事にしていきたいと思います。

第67回(2024/3/31):基本理念・行動哲学・行動指針他

第77回(2024/4/22):自然体・自由技術・自分軸+自己成長の螺旋

 

3.春山代表の「自分の命(=心)のときめき・ワクワク」という表現は、私自身の「楽しい・面白い・良いな!」=「興味・関心・好奇心」が行動の出発点、という思いと同義だと解釈しています。「内発的動機付け」を大事にし、創造的アウトプットにつなげていきたいと考えています。