「スポーツ(運動)と脳科学」第61回ー福岡伸一博士の5冊目の本を読んでますー

分子生物学者・福岡伸一博士の5冊目の本を読んでます。「新版動的平衡」(2017/6/5、小学館頁数:319頁、定価:1,000円(税別)という本です。正確に言うと、福岡博士が、自ら主著という2009年の単行本動的平衡」を新書化したもので、修正・加筆の上、新たな章(第9章「動的平衡を可視化する」)を加えた良書です。近くの本屋で購入し、全体をサラリと読み、重要部分に鉛筆線引き、キーワードを黄色蛍光ペンで浮き彫りにした段階です。これから何回も読み返すことになりそうです。

 

今の時代、ネットでの本紹介や書評が参考になります。ここでは私の感性に響いた部分を中心にご紹介しつつ、自調・自考してみました。

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1.福岡博士は、著書の中で、「生物学」分野のノーベル賞受賞者よりも、むしろその基礎を創った研究者をクローズアップしています。

1)ルドルフ・シェーンハイマー(ドイツ生まれ、ベルリン大学医学部卒業、米国生化学者、1898-1941自死)、同位体を用いた測定法を開発し、生命が「動的な平衡状態」にあることを最初に示しました。食べ物に含まれる分子が瞬く間に身体の構成成分となり、また次の瞬間にはそれは身体の外へ抜け出していくことを見出し、そのような分子の流れこそが生きていることだと明らかにしています。

 

2)アマチュアの顕微鏡の発明者レーウェンフック(1632-1723)。専門的教育を受けていなかったのですが、自作顕微鏡で生物学において重要な発見。歴史上はじめて顕微鏡により微生物を観察し、「微生物学の父」とも称されています。

 

3)アンリ・ベルクソン(フランスの哲学者、1859-1941)「生命には物質の下る坂を登ろうとする努力がある。」という、ベルクソンの弧動的平衡の数理的概念モデルは画期的です。是非、本書や関連動画でご確認ください。

 

2.脳の成長過程と脳の合目的性(57頁~59頁)

1)養老孟司著「考えるヒト」で学んだ、「入出力装置としての人間の脳」概念図を思い起こす文章があり、感慨深いものがあります。以下そのまま引用します。

「脳の内部では、神経細胞ニューロンがお互いに触手を伸ばし合って、それらが連結して(シナプス複雑な回路を形成している。この回路に微弱な電流が走ることによって、私たちは話したり、考えたり、記憶したり、あるいは細かな工作をしたり、走ったり、楽器を奏でたりしている。

一つひとつの知覚感情思考行動固有の神経回路が存在している。しかし、それぞれの反応に固有の神経回路は生まれつき、もともと準備されていたものではない。」

「・・・・・この回路網は「刈り取られて」いく。環境にさらされて、さまざまな刺激に遭遇すると、そのときに使われる(つまりよく電気が流れる)回路は太く強化される。逆に、使われない回路は連結が切れ、消滅していく。このようにして、私たちはこの多様性に満ちた世界と折り合いをつけていくのだ。」「このような環境との相互作用の結果として脳の合目的性が生まれる。合目的性は最初から目指されたものではなく、膨大な可能性の中から選び取られてきたものなのだ。そして、この選択はそれぞれの個別の環境とタイミングで決定される。」

 

3.私たちを規定する生物学的制約から自由になるために、私たちは学ぶのだ。」この文章から、山口周著「自由になるための技術 リベラルアーツ」という本を思い出しました。自由になるための技術=広い意味での「教養」です。これは哲学の世界の話かも知れません。

 

4.消化とは情報の解体汝とは、汝が食べた物そのものである

食物→「タンパク質」→咀嚼・消化管で消化酵素により分解し「アミノ酸」→吸収(低分子化された栄養素が消化管壁を透過して体内の血液中に入る)

 

5.脳で情報伝達に関わっている神経ペプチドと呼ばれるホルモンとほとんど同じものが、消化管の神経細胞でも使われている。第六感:gut(消化管)feeling、意志の力・「ガッツ(根性)」:gutsと呼ぶ。→脳腸相関。

サステナブル(持続可能性とは、常に動的な状態のことである。」

 

.生命活動とはアミノ酸の並べ替え

タンパク質アミノ酸にまで分解され、アミノ酸だけが特別な輸送機構によって消化管壁を通過し、初めて「体内」に入る。

 

体内に入ったアミノ酸血流に乗って全身の細胞に運ばれる。そして細胞内に取り込まれて新たなタンパク質に再合成され、新たな情報=意味を紡ぎ出す。つまり生命活動とは、アミノ酸による不断の並べ替えであると言っても良い。」

 

新たなタンパク質合成がある一方で、細胞は自分自身のタンパク質を常に分解して捨て去っている合成と分解との動的な平衡状態「生きている」ということであり、生命とはそのバランスの上に成り立つ「効果」であるからだ。」

 

サステナブル(持続可能性)とは、常に動的な状態のことである。」

 

7.イン・アンド・アウト

『私たち人間は、1日に60gのタンパク質摂取を必要としている。一方糞中に排出されるタンパク質量は約10gである。』

 

「私たちが食物を食べると、ここからドクトクと消化酵素が流れ出てくる。膵臓が合成しているトリプシン、アミラーゼ、リパーゼなどの消化酵素であり、消化酵素はタンパク質でできている。消化酵素液は、太い管に合一され、胃のすぐ下、十二指腸のあたりに繋がって、消化管の内側に口を開いている。消化酵素液の量は一日当たり60~70g。つまり食べた食品タンパク質とほぼ同じ量以上の消化酵素膵臓から消化管内に放出されている。この大量の消化酵素が食品タンパク質をその構成単位であるアミノ酸にまで分解する。」

 

消化管内は、食べた食品タンパク質とこれを解体しようとする消化酵素ほぼ等量グジャグジャにまじりあった混じり合ったカオス状態にある。消化酵素もタンパク質なので、最終的に消化酵素は消化酵素自身も消化する。そしてアミノ酸になる。それらは再び消化管壁から吸収される。」

 

消化管内でひとたびアミノ酸にまで分解されると、それは元々食品タンパク質だったのか、消化酵素だったのか見分けはつかない。」

 

糞中に排泄される10gのタンパク質とは、このなれの果てである。60gの食品タンパク質と70gの消化酵素との壮絶なバトルの残滓である。』

 

8.ダイエットの科学

1)基礎代謝(心臓・肺を動かし、体温を維持し、基礎的な代謝を円滑に動かす熱量)は成人男性1,400-1,500kcal・女性1,100-1,200kcalで、これに身体活動のレベルに応じて1.5から2の係数を乗じるとエネルギー必要量が算出される。

 

2)余剰カロリー(インプット)と体重増加(アウトプット)は、生命現象として非線形の関係、チビチビ食べた方が太りにくい食べ方だと言える。

 

9.生命は分子の「淀み」

1)シェーンハイマーは何を示唆したか

アイソトープ同位体)を使ってアミノ酸標識、私たちの生命を構成している分子は、プラモデルのような静的なパーツではなく、例外なく絶え間ない分解と再構成のダイナミズムの中にあるという画期的な大発見がこの時なされた。」

2)シェーンハイマー「ダイナミック・ステイト動的な状態)に対し、福島博士は、この概念を拡張し、生命の均衡の重要性をより強調するため動的平衡と訳した。

3)自然界は「渦巻き」の意匠に溢れている。効率→質感、加速→等身大の速度まで減速、直線性→循環性。渦巻きは、おそらく生命と自然の循環性を象徴する意匠そのものだ。

 

10.生命・自然・環境そこで生起する、すべての現象の核心解くキーワード、それが動的平衡

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動的平衡は仕事・勉強・家庭・スポーツ・趣味など広く社会一般に通用する概念です。自分の視野を広げ、価値観を豊かにしてくれます。

本書「単行本あとがき」に記された「書くことが考えを生み、考えが言葉を探そうとする」と同じ心持ちで、この記事を書いています。私の場合は毎日1万歩の有酸素運動を生活の軸として、歩くこと(動くこと)が書きたい気持ちを促し、書くことが考えを生み、考えが言葉を探そうとする」、ことでブログ記事執筆が捗ります。

 

福岡伸一先生の本を読むと、自然科学、文学、更には経済・経営学も、土台は「哲学」なんだ!という気がします。読む順番は逆(新しい順)になりましたが、今月中に生物と無生物のあいだを読みます。福岡哲学「守破離」の「守」の段階を卒業し、「破」の領域に足を踏み入れたいと思っています。

今、情報化社会の極みとも言うべきAI人工知能の時代ですが、 こんな時代だからこそ自然の摂理」に導かれた羅針盤が必要です。自分自身の知性・感性・野性を育みつつ、試行錯誤しながら、継続的に創造的アウトプットの質を高めていきたいと思います。