「スポーツ(運動)と脳科学」第66回ー行動経済学の先駆者ダニエル・カーネマン氏を偲ぶー

心理学者にしてノーベル経済学賞を受賞した、行動経済学の先駆者プリンストン大学名誉教授ダニエル・カーネマン(90歳)の訃報記事が新聞に載りました。思わず名著「ファスト&スロー」の文庫本を手にしました。本書は「意思決定」カニズムを徹底解剖した行動経済学世界的ベストセラーです。2012年に単行本、2014年に文庫本(840円+税、上下巻)が翻訳出版され、2014年に東大で一番読まれた本だそうです。

 

個人的には、「経済」の仕組み・根幹を理解する基本書として、「アダム・スミス」「渋沢栄一」「ウォーレン・バフェット」を読みましたが、実際に「株式投資」の意思決定場面で参考になったのは上記「カーネマン書」でした。「直感的」システム1と「熟考型」システム2の2つの思考法を詳述しています。

 

名著「ファスト&スロー」は上下巻で800頁を超え、とても全頁読破は自分には無理でした。最初の100頁と、以降は要部をパラ読みし、最後は下巻の「結論」明治大学友野教授の「解説」で全体像を把握しました。そして季節に何回か、必要に応じて、関連頁をめくります。重要頁に付箋を付し、重要部分は「丁寧に」鉛筆で線を引き、キーワードを「綺麗に」黄色蛍光ペンで浮き彫りにします。実体験に即して、何回か、「何回も考え」、本質を理解しようと試みました。こんな利用の仕方で5年経ちました。結構「株」や「日常生活」の意思決定に役立っています。

 

今回は、上巻・第2章「注意と努力」(60頁~)の中の文章にハッとしました。

瞳孔は魂の鏡だ

「美しい自然を撮影した写真を見ているとき、瞳孔が拡がる」

「同じ美女を撮影した2枚の写真の内、魅力的な方は瞳孔が拡がっている」

瞳孔が知的努力を敏感に示すバロメータになる」

日常生活体験から、成程感満載の内容です。

 

早速、ネットで参考文献を調べてみました。以下、要部の引用です。

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1.アメリカ・ジョージア工科大学の研究グループ(2021年6月記事)

 その可能性に気がついたのは、ダニエル・カーネマンという心理学・行動経済学者が考案した理論にもとづき、瞳孔の散大を調べていたときのことだ。「目は心の窓」というが、「知能の窓でもある」ようだ。『Cognition』(3月21日付)に掲載された研究によれば、瞳孔が大きい人ほど、論理的思考・注意力・記憶力といった知能が優れているのだそうだ。

一見関係のなさそうな瞳孔の大きさに知能が反映されるのは、瞳孔の大きさが「青斑核」という脳領域と関係しているからだという。青斑核は脳幹の上部にあって、ほかの領域と神経でつながっている。神経伝達物質としてもホルモンとしても作用する「ノルエピネフリン」という物質を放出し、認知・注意・学習・記憶に関するプロセスを制御するのがその役割だ。

 

2.筑波大学体育系の研究グループ(2022年9月発表)

瞳孔は「心の窓」、脳の覚醒や注意、精神活動を反映、瞳孔の拡大・縮小の変化は交感神経と副交感神経の両方から神経支配。その源は、脳全体にノルアドレナリンを放出し、覚醒や注意をもたらす青斑核と呼ばれる部位(神経核)で、最近、瞳孔の拡大・縮小は青斑核の活動を含む脳の覚醒状態の変化を秒単位で反映するとして注目。

一方で運動も瞳孔を拡大させるとされているが、運動中の瞳孔の変化を追跡し、脳の覚醒状態を推定した。研究では、健常な男子学生26人に自転車ペダリング運動で、非常に軽い運動強度において、瞳孔は安静状態にある時よりも顕著に拡大した。負荷が増えるに従って瞳孔の拡大変化は緩やかになり、中強度を超えた付近から疲労困憊(こんぱい)に至るまで、再び急激に瞳孔は拡大した

非常に軽い運動で瞳孔の拡大が確認できたことは、ヨガやウォーキングなどの軽運動でも脳の覚醒に関わる神経が活性化する可能性が示唆された

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毎日1万歩のウォーキングで、①有酸素運動後の「快」の感情、②心身の健康維持・向上、③脳活性化と文筆活動への好影響、などのメリットを実感している私自身、大いに頷ける研究成果です。

 

立山連峰を望む恵まれた自然環境の中、感性豊かに「瞳を輝かせて」有酸素運動→脳活性化→創造的アウトプットの好循環で、心豊かな毎日の生活をと思います。